outcry-ongakuの語り場

電音部に関する記事をちょくちょく書いてます!(不定期更新)

【電音部考察】Irisとその奥にあるニューコムの目的について考えてみる

はじめに

 お久しぶりでございます。イベントレポート以降、記事の更新が滞ってた理由は単純に夏バテしていました…笑。他の趣味やら、やらないといけない事やらをこなしてたら記事を書く気力が失せていて、そんな中でもいろいろネタが降っていく中で追いかける事に精一杯でした…。そんな身の上話は置いといて、今回は電音部の中枢を担うセントラルAI「Iris」についての考察をしていこうと思います。何故、ニューコムは「Iris」というAIを作る必要があったのかという核心に迫る為に、まずは問題提起から始めます。

 

 「Iris」から見えるニューコムが目指す世界

問題提起1:「Iris」の語源

 「Iris」という言葉の語源として考えられるのはギリシャ神話に登場する虹の女神「イリス(アイリス)」である。このイリスという女神はヘラやゼウスなどの神々の伝令役として活躍したという事が神話内の様々なストーリーからわかっている。この事からも「繋ぐ」という事が一つのキーワードになっている電音部と縁の深い神であると言えるだろう。後述するように「Iris」は様々なシステムを統括する基幹システムであるという点で「繋ぐ」という名称は間違いではない。では、本当にIrisは「システムを繋ぐモノ」なのだろうか?

問題提起2:「Iris」の機能

 現在、判明しているIrisの機能を箇条書きでまとめると以下のようになる。

  • プレイヤーの生体データと様々な情報(セトリやキューポイントや実際のDJの活動など)を紐付け管理する「ID-J」の運用
  • 楽曲データを管理するDBである「アカシックレコード」の運用と管理
  • 作曲する人の趣味嗜好を分析し、作曲をアシストする機能
  • STACKバトルの判定、それに付随して行われる来場者のデータ化

このように並べると見えてくるが、それぞれが独立したAIであっても成り立つモノである。判定に特化したAI、作曲に特化したAI、管理に特化したAIと専門的に行うAIを立て、それを繋ぐ為のシステムとして「Iris」が存在するという形でもいいはずである。それを「Iris」というAIに全て任せる事は何かしらの意味があるのだろうか?

調査:「エースコンバット3」から見える、「人間とAI」の関係性

 ここで、電音部が繋がっているとされるナムコ作品の世界観UGSFに含まれる作品であり、電音部に近いUGSFの2040年の時代背景について描かれた「エースコンバット3 エレクトロスフィア」(以下、エスコン3)から現在の電音部におけるAIの変遷について考えていく事にする。

 エスコン3の(ネタバレにならない程度の)大まかなあらすじだが、国家が形骸化し、代わる様に企業が支配する世界で、長い間、寡占状態を敷き保守的である「ゼネラルリソース社」と新鋭で科学至上主義による急速な発展を遂げた「ニューコム社」による経済的争いは武力的な争いへと発展していく、主人公は中立の立場から両社の争いを止めるというものだ。

 エンディングについては敢えてここでは触れない事にし、ここでは、重要な二つの技術について考えていこうと思う。それはタイトルとなっている「エレクトロスフィア」と「電脳化」である。

エレクトロスフィア・電脳化とは

 エレクトロスフィアはゼネラルリソース社によって開発された電脳空間であり、あらゆる情報・電子機器の管理を行う事ができるIoTとICTを組み合わせたようなネットワークの集合体と言える。そして、そういった電脳空間などのネットワーク上に人間(の思考や記憶などの情報)が入り、生きた人工知能として永久に存在する事を目的として記憶や思考回路をソフト化する事を電脳化という。つまり、UGSFにおいて人間のような思考回路を持つ汎用的なAIに関してゼロから学習して生み出されたAIより先に、人間の思考をソフト化する事でAIを開発するという技術が確立していたという事が分かる。

サイモン・オレステス・コーエンの言う「次の時代」とは

 エスコン3のソフトには同梱された小冊子「フォトスフィア」という世界観や技術に関する内容をキャラクターへのインタビューや企業の広告形式などで紹介するものが存在する。その中にニューコムの技術者であるサイモン・オレステス・コーエンという人物がAIについて語る内容がある。このサイモンは作中において非常に重要な人物である事は付記しておく。

 政治が権力を握っていた頃のコンピュータ技術。つまり、国家が機能していた頃はコンピュータは道具に過ぎなかったとし、以下のように述べている。

我々はSF小説や映画、テレビ・ゲームといった空想の中で、コンピュータや機械に人格を持たせ、いつかロボットやサイボーグといった夢物語が現実になることを信じていた。いいか、ただ、それはもともとの発想が間違っていたんだな。そう、無から生命を創ることは、神のみ許された技だと決まってた。

この部分において言える事は「人間のような思考を持ったAIをゼロから創る」というのは「生命の神秘」と同等という事になるという事だ。「バベルの塔」の神話にあるように、人間が上位の存在に当たる神の領域には辿り着けないことと同じで、使役されるネットワーク空間の存在が使役する人類のような肉体や知性を持つ事は出来ないという事を意味する。(いただきバベルってそういう…)その上で、サイモンはこう続ける。

しかし、そうではなく、私たち人間の方から機械やコンピュータになるのならば、まだまだ充分に可能性があるんじゃないか。そう思うだろう。この究極の世界は、人間の脳を構成している人格をそのまま数値化し、コンピュータ上に複写する。いわば、脳そのモノをエレクトロスフィアへ移植する技術。それが、私の生涯を賭けた研究であり望みだ。

この部分では、上記で書いた事の反対である「使役する存在が使役される存在と同質になる」という事は可能であるという事がわかる。これは天女の神話などでもあるように、上位にあたる存在が下位にあたる存在へ下る行為と同じ様に、ネットワーク空間に自身の知性を置き、存在しうる事が可能である(厳密には、もう既に開発されている)事を示している。

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世界観のイメージ図

サイモンは決して自分が描いた世界が夢物語ではないと宣言し、次の時代が自分達を味方してくれると言い残している。では、「次の時代」において何が起こるのか(or起きたのか)について考えていこうと思う。

考察:シンギュラリティの発生と世界の転換点について

 前述したとおり、電音部の前の時代にあたるエスコン3の世界において「人間とAI(コンピュータ)」は主従関係にあり、人間がコンピュータを使役する関係にあった事は示されている。では、「Iris」は単純に「主人たる」人類と「従者たる」AIを「繋ぐ」からこそ、その名称なのだろうかと考えられる。しかし、それでは説明がつかない重要な世界観が電音部には存在する。それは「電音部世界はシンギュラリティ後の世界である」という事だ。

 シンギュラリティとは一般的に「AIが人間が持つ知的な能力を凌駕し、進歩していく事」を指す。電音部世界で、それと同じ意味で定義されているかは作中にて明かされていないが、公式ホームページの「World」にもあるが「テクノロジーの進歩によりAIが人類の代わりに文明を進歩させる原動力となった時代」という事は、少なくとも、AIが人類を凌駕しているという事は窺い知る事が出来る。さらに、「文明の担い手」が人類からAIになったという事は、先ほど解説した主従関係が一部において逆転しているのではないだろうかと考えられる。

 サイモンが言っていた「次の時代が味方してくれる」というのは、このシンギュラリティの発生であると考えられる。電脳化した人間の知性が肉体を持つ人間の知性を凌駕し、世界そのものの主従関係が変化する転換点。それが起きると予想できたからこそ、夢物語ではないと言い切れたのだろう。

結論:「Iris」について

 上記の内容は「Iris」の「繋ぐ」という意味にも変化を及ぼす。つまり、電音部世界において、AIが人間より上であるならば、「Iris」とは上位の世界であるネットワーク空間(エレクトロスフィア)と下位の世界である人間世界を「繋ぐ」為のインターフェースまたは、アプリケーションという事になる。我々がPCやスマホを用いてネットの世界を覗くように、AI(電脳化された人間)にとってのPCやスマホのように「Iris」を用いて人間世界を覗くインターフェースの役割を持ち、また、音楽というモノをネットワーク空間に保存と使用できるようにする為のアプリケーションの役割を果たしているのではないだろうか。

 そして、何故「Iris」は全ての機能を統合しておく必要があったのかという話は、AIが人間よりも優れているからという事のほかに、その先として、ネットワーク世界から人間世界に存在を下ろす事を考えているからではないだろうかと考える。つまり、「電脳化」の逆で、インターネット空間で誕生した存在をサイボーグやロボットのような形で人間世界に下ろす事が最終的な目的になるのではないだろうか。その先駆けとしてDJという「人間の感性」の理解と発露を行えるAIの開発が行われているのではないだろうか。

 如何にネットワーク空間が成長しようとも、物理的なリソースの開発が進まなければ人類共々、飽和を迎えてしまう。メタ的な内容になるが、後の宇宙への進出を控えた時代の中で人類に新たなリソースの開拓をしてもらう為には、人類との共存をしていかなければならない。人間とAIの完全に対等な関係は遥か後の時代である「しんぐんデストローイ」に完成する事が示されている。その前段階のスタートラインが電音部の世界ではないのであろうか。

まとめ

  • 「Iris」はネットワーク空間と人間世界とを「繋ぐ」事を目的としたインターフェースまたは、アプリケーションである。
  • 「Iris」がセントラルAIとして全てを統括するのは、「人間の感性」の理解と発露をAI自身が行えるようにする為。最終的には、ネットワーク空間から人間世界への存在の確立を目的とする。

おわりに

 久しぶりにこんな感じの考察記事を書きましたが、非常に疲れた…笑。発表されていく楽曲の中で「Prod.」と「feat.」の考察が徐々に破綻していくのでちょっとあれについてはもう一回再考しないといけないかもなあと思っております…(そもそも、あれは全く法則性とか無いのでは?)電音部、ここからもっと流行ってほしいなという反面、このまま燃え尽きちゃうのでは…?と心配になる時もありますが、まあ、上手くやってくれるんだろうなと期待しつつ、次の考察は電音部の時系列について考えていきたいなと思います。では、また今度!

参考文献

「【電音部考察部】UGSFシリーズから考える「電音部」の行き着く先とは」(あいさすP 2020 https://note.com/isashikarian3/n/ndfbada4821c1#UCUIT)

「ストーリーを教えてもらうスレ暫定wiki エースコンバット3 エレクトロスフィア」(2011 https://w.atwiki.jp/storyteller/pages/786.html)

エースコンバット3 エレクトロスフィア」(wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%883_%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2)

「シンギュラリティ」(大迫秀樹 2016朝日新聞出版「知恵蔵」)